『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』感想・考察・解釈!ラストの意味
面白かったァ!
面白かったけど、劇場を出た時「ストーリーらしきストーリーがなかった」「意味不明」という言葉をチラホラ耳にしました。
正直、僕も全然世代じゃないので時代背景や小ネタなどは拾いきれなかったんですが、自分の中で「こういうお話だな」という軸みたいなものはみつけられたので、それを語ろうと思います。
一つの説として参考にしてください。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
©Once Upon a Time in Hollywood/Columbia Pictures/Bona Film Group/Heyday Films/Visiona Romantica
キャスト:
レオナルド・ディカプリオ ブラッド・ピット マーゴット・ロビー
概要
奇才クエンティン・タランティーノの第9回監督作品。
あらすじ
1960年代、ハリウッド。
落ち目のテレビ俳優リック・ダルトンは、彼と多くの仕事を共にしたスタントマンで親友でもあるクリフ・ブースに支えられながら、うだつが上がらない日々を送っていた。
そこへ、イタリアのマカロニ・ウエスタンに出演しないかという話が持ち上がり、リックは迷いつつも奮起する。
登場人物
リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)
主にアクション作品で活躍してきた落ち目のテレビスター。
感情の上下が非常に激しい。
クリフ・ブース(ブラッド・ピット)
スタントマンだが、親友のリックの付き人のような仕事もしている。
並外れた戦闘技術を持つ。
リックの隣に引っ越してきた女優。
映画監督のロマン・ポランスキーと同棲している。
※以下ネタバレ注意
シャロン・テートが死なない話
今作では、主役のリック・ダルトンとクリフ・ブースだけでなく、リックの隣に住むシャロン・テートというハリウッド女優の様子が断片的に差し込まれます。
リックたちと全然絡まないし、彼女のシーンって必要あるの? と思った方もいるかもしれませんが、彼女こそがこの映画の核です。
シャロン・テートは実在した女優で、60年代にテレビや映画で活躍しましたが、1969年にカルト集団「チャールズ・マンソン・ファミリー」に殺害され、26歳の若さでこの世を去ります。
マンソンが彼女が住む家の前住者を逆恨みしており、その巻き添えのような形で起こった悲劇でした。
つまり、シャロン・テートの登場シーンは死ぬ運命にある彼女の儚い一瞬を切り取ったモニュメントであり、また、「その日」が刻一刻と近づいていることを暗示するサスペンスだったわけです。
時折画面に表示される現在の年月日もカウントダウンだったと考えられます。
しかしこの映画では、同監督の『イングロリアス・バスターズ』と同じく、史実は改変され、彼女は襲われません。
ラストシーンで、マンソン・ファミリーはシャロンではなく隣に住むリックを襲おうとし、クリフたちの返り討ちに遭います。
それこそがこの映画の肝であり、この映画の最大の存在理由です。
これって結局どういう話だったの? と感じたら、「シャロン・テートが死なない話」と考えると一本線が引けると思います。
ハリウッドの復讐
では、主役であるリックとクリフのパートは一体なんだったのでしょうか。
中盤でクリフがファミリーと対面する場面とラスト以外、「シャロン・テートが死なない話」とは関係ない、完全に独立した話だったのでしょうか。
たしかに独立したものとして楽しむこともできますが、僕は繋がっていると思います。
さて、リックとクリフのパートでは、リックの俳優としての栄光と凋落が描かれます。
しかしこれは、「果たしてリックはスターに返り咲くことができるのか?」という視点で描かれているわけではありません。
栄光も凋落もハリウッドの「日常」であり、その日常を、いい面も悪い面もひっくるめて「夢と魔法のハリウッド」として描き、称えているのがリックとクリフのパートなのだと思われます。
そして本作は、そのようにしてじっくりと紹介された、まるで意志を持った生き物のような「夢と魔法のハリウッド」が、本当に意志を持ち、リックとクリフを通してシャロン・テートを救うお話であると僕は解釈しています。
よりメタ的に見れば、現実世界で起こった悲劇を『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』という虚構の世界の中で回避し、シャロン・テートという一人の天使を奪い去った巨悪を粉砕する復讐劇と呼ぶこともできます。
ちなみに「ハリウッド」はラストでのみ彼女の救済に乗り出しているわけではありません。
本作では、危険な男のように演出された男が危険ではなかったり、吸ってはいけない煙草として機能するはずの煙草を吸っても問題なかったりと、歪な伏線が非常に多いです。
これは「ハリウッド」、つまりこの物語のデウス・エクス・マキナが、リックとクリフ(特にクリフ)に力を貸し、運命の歯車をズラしてシャロン・テートを守ろうとしていたのだと思います。
また、もう一つの見方として、本作は虚構を虚構だとわからない者にも一石を投じていると考えられます。
ファミリーがリックを襲った理由は、彼が映画やテレビの中で大量に人を殺したからです。
「ハリウッド」は、現実と虚構を同一視し、だから役者に制裁を加えてもいいと考える悪しき者たちを、逆に虚構のような現実で痛めつけたわけです。
まとめと補足
感想としては「すごくよかった」です。
リックについては、悪役として最高の演技を披露するシーンと、その後の子役に褒められるシーンが特にグッときました。
クリフについては、全編において一挙手一投足がカッコよくて、ずっとシビレていました。
ラストのやられちゃうのかなと思わせてからのスタイリッシュな反撃も超クール。
二人の爽やかな友情も最高でした。
また、小ネタについては、僕はブルース・リーとスティーブ・マックイーンとバットマン&ロビンくらいしかわかりませんでしたが、世代直撃の方はさらにこの映画を楽しめると思いました。
評価:☆☆☆☆☆(5点満点)