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『ベター・コール・ソウル』シーズン5感想・評価|もう歯車は止まらない

至上最高のテレビシリーズと称されるドラマ『ブレイキング・バッド』のスピンオフにして過去編、『ベター・コール・ソウル』シーズン5の感想です。

 

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©High Bridge Productions/Crystal Diner Productions/Gran Via Productions/Sony Pictures Television/Netflix

 

あらすじ

弁護士ジミー・マッギルは自身の名を「ソウル・グッドマン」として登録し、同じく弁護士で恋人のキム・ウェクスラーの心配をよそに、ならず者たち相手の商売を拡大させていく。

一方、麻薬ビジネスを展開するフアレス・カルテル内では水面下で対立が起こっていた。

ヘクター・サラマンカの甥・ラロ・サラマンカアメリカへ来たことによって、密かに麻薬の製造ラボを建造する計画が頓挫したガス・フリングは、マイク・エルマントラウトコンサルタントとして雇い続けることを決め、また、スパイとしてナチョ・バルガを利用しながら、ラロの失脚を目論む。

順調に成功への道を辿りつつあるかに見えたソウルは、ラロに弁護士として雇われ、血で血を洗う抗争に巻き込まれていく。

 

※ネタバレ注意

 

感想

シーズン3でガスが出てきたあたりから、加速度的に『ブレイキング・バッド』の空気に近づいている気がします。

ただでさえ丁寧に造形された『ブレイキング・バッド』よりさらに円熟味が増した感のある『ベター・コール・ソウル』ですが、代わりに派手でわかりやすい展開が少ないことが序盤のシーズンでは顕著でした。

それでも十二分に面白いし、だからこその良さもあるのですが、個人的にはちょっと物足りない気もしていました。

(序盤が苦手なのはジミーの兄・チャックが苦手だからというのもありますが……。)

しかし、最近はアウトロー味がどんどん強くなっていくのに伴ってそういう展開も増えてきて、自分としては非常に嬉しいです。

もはや付け入る隙のない、『ブレイキング・バッド』すら超える最強のドラマになりつつあるのかもしれません。

さて、今シーズンではついにジミーが公に「ソウル・グッドマン」を名乗り始めました。

スター・ウォーズ』で言ったらコルサントでアナキンがダース・ヴェイダーと名付けられてからのクライマックス、つまりこの「悪徳弁護士ソウル・グッドマン誕生秘話」の佳境に入ったわけです

ブレイキング・バッド』時代と似たような詐欺同然の行為にはもう散々手を染めているし、名前も変わった今、後は何を以て「ソウル・グッドマンの誕生」と見なすのでしょうか。

一つは、社会の裏とのパイプを持つことでしょう。

ブレイキング・バッド』で見せた犯罪者御用達の弁護士としての地位、そしてチートに近い強力なコネクションを、ソウルはここから確立していくと思われます。

今シーズンはその本格的な足掛かりともいえるようなお話でした。

ソウルは前シーズンに引き続き、使い捨て携帯を配ったりして犯罪者たちとのホットラインを結ぶことに精を出しています。

さらに、マイクの策略によって捕まったエドワルド・「ラロ」・サラマンカの弁護を引き受けることになり、ただの弁護人とは一線を画す仕事、メキシコから大量の保釈金を運ぶ役目を任されます。

その結果、ガスとは別口でラロを邪魔しようとするボルサが派遣した武装部隊に襲撃されるソウル。

マイクに助けられて命を拾いますが、強烈なトラウマが植え付けられます。

こういう経験を繰り返して、ディープな悪の世界での心得とノウハウを少しずつ身に付けていくのでしょう。

それはすなわち、もう後戻りできないということでもありますが……。

それにしても、前シーズン終盤から登場したラロから目が離せません

残忍さと凶暴性と家族愛については従兄弟であるトゥコと同じですが、そこにあのガスに匹敵する知性とカリスマ性が加わることでとんでもなく魅力的なキャラクターになっています。

9話でソウルの嘘を見抜き、問い詰めるシーンと、シーズンファイナルで自分を暗殺しに来た部隊を一人で返り討ちにしたところが特に震えました。

愛くるしい犬のような顔をしながら静かな狂気とプレッシャーを醸し出す役者の演技も、当然ながら一級品。

個人的には、間違いなく今シーズンのMVPでした。

ちなみに、裁判の際、偽名や偽の家族がラロにあてがわれていましたが、こういうのってアメリカだとバレないんでしょうか???

戸籍がないからできるのかな?

話は戻りますが、ソウル・グッドマンが本当の意味で誕生するにあたって重要なもう一つの要素は、『ブレイキング・バッド』には登場しない恋人であるキム・ウェクスラーをなんらかの方法で失うことでしょう。

その失い方がどうなるのかがこのシリーズの最大の肝になるんだろうなあ、という思いが回を増すごとに強くなっていきます。

当初は、ソウル(ジミー)のやり方に愛想を尽かして離れていくのかと思われましたが、そんな簡単な話になるわけがなく、前シーズンの中盤から、彼女も詐欺師のような行為を楽しみ始めています。

その根源には「権力者への反発と正義のためには手段を選ばない」というジミーより立派な思想が根差しているとは思いますが、わりとムカつくだけのハワードの人生に決定的な打撃を与えようとしてジミーをドン引きさせるなど、キムの方が危なっかしいと思わせる部分も多々あります。

因果応報がきっちり作用するこのシリーズにおいて、キムが死にはしないまでも、なにかやらかして逮捕されたり、弁護士の資格を失ったりする未来がどんどん固定化されていく気がします。

知的で優しくて芯の通った素晴らしい女性なので、そんな未来が本当になったらかなりショックかも……。

さて、ソウルの過去編である本作はマイクやガスの過去編でもあります。

前シーズンで、麻薬の製造ラボの建造監督が逃げ出したため、苦渋の想いで彼を撃ち殺したマイクは、溺愛している孫に対して感情的になるなど、めずらしく精神的に不安定になっていました。

マイクもここから、よりプロフェッショナルな裏社会の住人に変貌を遂げていくのでしょう。

足を洗いたがっているナチョのためにガスに掛け合ってあげる優しさは、果たして捨て去るべきものなのか否か……。

あと、よく観察するとガスについても過去編ならではの未熟さが描かれている気がします。

ラボ建造の作業員たちに普通に顔を見せているのが『ブレイキング・バッド』時の彼ではありえない気がするし、「噛みついてきた犬は厳しく躾けるのが一番」というBBの頃とは真逆の発言をするし、満を持して送り込んだ暗殺部隊をラロに壊滅させられるし。

それでもガスが一番好きなキャラクターなんですけどね。

 

まとめと補足

ジミーがソウル・グッドマンとして覚醒するにあたって、果たしてどの程度善性を失うのか、というのもかなり気になります。

ブレイキング・バッド』での彼は今よりも悪行に対して吹っ切れている印象がありますが、それは平気になってきたからなのか、それとも主役じゃないから葛藤が描かれなかっただけなのか。

そして、今シーズンでは『ブレイキング・バッド』からハンクとゴメスがゲスト出演しましたが、ファイナルシーズンとなる来シーズンではついについについにウォルターとジェシーが合流予定

彼らは一体どの程度話に絡むのか。

キム、ナチョ、ラロはどのように退場するのか。

フラッシュバックで挿入される、落ちぶれた未来のソウルの物語はどのような結末を迎えるのか。

過去最高のグランドフィナーレが楽しみでなりません。

 

評価:☆☆☆☆☆(5点満点)