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ブラック・ミラー『国歌』感想・考察|犯人の目的はたぶん…

『国歌』

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©Black Mirror/Zeppotron/House of Tomorrow/Netflix

 

あらすじ

イギリス首脳部に対する一つの映像が公開された。

そこには監禁された王室のスザンナ姫が映し出され、彼女は犯人が要求する解放条件を読み上げた。

それは、首相が豚とある屈辱的な行為をする様子を生放送で中継するという前代未聞のものだった。

首相と側近たちはあの手この手で他の方法を模索するが、犯人の頭脳はそれを上回り、また、その過激さが強調されるにつれ、首相は要求通りの行為をするべきだという世論が高まってゆく。

 

感想

最初は、実は姫の自作自演でしたとか、実は豚からのメッセージでしたとか、ありがちなオチを探したんですが、実際はもっと深いお話でした。

オチとしては、結局、首相は行為をすることになるが、実はその直前に姫は解放されており、中継に夢中になった国民の誰もそのことに気がつかなかったというものです。

首相と国民にはその事実は伏せられ、そして、犯人はテレビの前で自ら命を絶っていました。

これはタイトル通り「国」というものを問うお話ですね。

マスコミやSNSを通じて繋がり、興味本位で人の不幸に沸く国民たちの愚かさと、そのような醜悪な一体感こそが国を一つにするという現状を皮肉っているのだと思われます。

ただ、伝えたいことはそれだけではない気もします。

当初の世論は、首相が要求を飲むことに反対する声の方が強く、犯人が何をしでかすかわからないことがわかると、反対の声がそれを上回りました。

また、中継の途中からは、国民は首相に深い同情を寄せていました。

これらのことから、この作品は「国民=人の不幸に沸く者たち」と断じているわけではなく、彼らにも善性はあるかもしれないが、それにしても視野が狭すぎるということも含めて嘆いているのだと思います。

劇場版パトレイバー2にも通じる、なかなか面白いテーマですよね。

若くて広すぎるアメリカではなく、由緒ある歴史を誇るイギリスを舞台にしたのも正解だと思います。

犯人の動機は一体なんだったのでしょうか。

劇中では、事件後、犯人は世紀の芸術家として一部でもてはやされています。

たしかに、国を馬鹿にするというアートを完成させ、有終の美で人生を締めくくったようにも見えます。

ですが、(寓話だしいつも以上に答えは一つではないんですが)彼の正体は国粋主義者だったのではないのかなと僕は思います。

愛する自分の国の現状を嘆き、自らが壁となって国を試し、自分の頭脳が勝利すると同時に魂が敗北したのではないでしょうか。

それにしても、最初から最後まで首相がかわいそうでした。

横暴な嫌な奴なので適度に緩和されましたが、それでも気の毒。

クレジット後に、事件後の彼は国民からは支持を集めたが、愛する妻からは嫌悪されるようになったというもう一つのオチがあります。

無論、この嫌悪は思想的なものではなく生理的なものでしょう。

あんまりじゃないですか。

前半では首相の身を案じているようにも見えた夫人ですが、結局、自分のことしか考えていなかったわけです。

これほどの目に遭わなければならないことを、首相はしたのでしょうか。

犯人は、罰を受けても構わないような人間であるかどうかもリサーチした上で、彼を選んだのだと信じたいです。

 

評価:☆☆☆☆(5点満点)

 

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