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バレットは四皇になれない『ワンピース:スタンピード』感想・考察

ONE PIECE STAMPEDE』

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©ONE PIECE STAMPEDE/東映アニメーション集英社尾田栄一郎

 

監督:大塚隆史

原作・監修:尾田栄一郎

キャスト:

田中真弓 中井和哉 岡村明美 山口勝平

平田弘明 大谷育江 山口由里子 矢尾一樹

チョー 磯部勉 ユースケ・サンタマリア etc.

 

概要

大人気漫画(アニメ)『ワンピース』シリーズの劇場版第14作。

テレビアニメ放送開始20周年記念作品。

近年の劇場版作品同様、原作者の尾田栄一郎が監修とキャラクターザインを務める。

 

あらすじ

大海賊「祭り屋」ブエナ・フェスタによって、海賊王にまつわるお宝が用意されるという「海賊万博」が催される。

麦わらの一味はもちろん、最悪の世代を始めとした様々な面々が顔をそろえ、お宝の争奪戦が始まるが、そこへ海賊王の元クルーで「鬼の跡目」と呼ばれた男・ダグラス・バレットが現れ、自らを最強と称して無差別な攻撃を始める。

さらに、海軍本部によるバスター・コールが発令され、参加者たちは大混乱に陥る。

 

※ネタバレ注意

 

感想

とにかくファンの期待に応えよう! という意気込みを強く感じる文字通りのお祭り映画でした。

最悪の世代、七武海、海軍本部、CP0と、四皇以外のほぼ全勢力が顔を揃え、過去最大のスケールとなっています。

今作を劇場版の最高傑作に挙げる人は多いでしょう。

僕も今までで一番楽しめたと思います。

ただ、キャラクターの台詞があまりにも原作をなぞりすぎていて、セルフオマージュを繋ぎ合わせた感が強かったのが残念です。

『海賊無双』シリーズみたいに、原作における人物像を立体的に掴んだ上で、「オリジナルだけど本当に言いそうな台詞」をもっと紡ぎ出してくれたら、さらに「おおっ!」となったと思います。

ロビンとクロコダイルの再会のくだり、ハンコックのギャグ、ウソップの男気は最高に良かったです。

また、アクションに関しても間違いなく今までで一番でした。

ストーリーの骨格もかなり攻めていているものでよかったです。

今回のテーマはずばり「大海賊時代の否定」だと思います。

二人の大海賊が、それぞれの信念と目的を持って『ワンピース』という物語の根幹を揺るがそうとするという筋書きは、かつてなく踏み込んだもので魅力的でした。

時代に挑んだ二人の男・バレットとフェスタについて、少し考察してみようと思います。

 

バレットと四皇の違い

ダグラス・バレットは、今までいそうでいなかった最強を目指す男です。

元軍人で、手酷い裏切りを経験してきた彼は、個人の強さだけが絶対という信念を持っており、「弱さ」や「仲間」を否定します。

フェスタと組んで今回の事件を起こしたのも、あらゆる勢力やバスター・コールを打倒して己の最強を証明するためです。

若い頃何度挑んでも勝てなかったゴール・D・ロジャーが「勝ち逃げ」してしまったがために、別の形で最強の称号を手に入れようとしたわけです。

実際、バレットはとんでもなく強いです

しかし、だからといって彼が四皇や海賊王の器であったかというと、そんなことはないと思います

『ワンピース』における強さとは、仲間を守るため、そして自分の意志を貫き通すための手段であり、これはルフィだけの話ではありません。

特に四皇の黒ひげやビッグ・マム、カイドウは、自由(我がまま)を極めた存在であり、強さはそれを可能にする副次的な要素にすぎません

そして、そのような生き様こそが、王の座を争う資質として描かれています。

つまり、自身の最強を確かめることでアイデンティティを完成させようとしているバレットは、すでに完成されたアイデンティテイを押し通そうとしている四皇と比べて発展途上の存在であり、海賊王=最強という彼自身の誤った価値観で測った時のみ、時代を制し得る者の土俵に立てたといえます。

余談ですが、バレットにとってロジャーは、超えるべき対象であると同時に自分自身を受け止めてくれる存在であり、バレットの大暴れはそういう意味でもロジャーを失った穴を埋めようとする行為だったと解釈できます。

そのような深層心理を自覚していなかったために、ルフィの言葉によって自覚した瞬間、自分が本当に求めているものがわからなくなり、迷いが生じてしまったことが、彼の敗因と考えることもできます。

 

時代に敗れたフェスタ

ブエナ・フェスタは、人々を熱狂の渦に巻き込むことに命を燃やす男です。

ロジャーによって「大海賊時代」という最上級の祭りを起こされてしまった彼は、「祭り屋」のプライドに賭けてある計画を実行します。

それは、ワンピースが眠る島・ラフテルのエターナルポースを提示して、「どこかにある宝を探す」時代を終わらせ、「ここにある宝を奪い合う」時代をもたらすというものでした。

しかし、大海賊時代の熱狂の本質は、やはりどこかにある宝を探そうとするロマンや夢、信じる気持ちであり、白ひげが「ワンピースは実在する」と宣言した後もそれは変わっていません。

フェスタがもたらそうとした新時代は、まず敵を打ち滅ぼすことに目を向けてしまう構造であり、それでは人々を惹きつけるのに最も大事なものが欠けてしまいます。

そのことに気がつけなかった時点で、彼はどう転んでも大海賊時代に敗北する運命だったと考えられます。

 

まとめと補足

ファンサービスてんこ盛りのオールスターの熱さ・楽しさ、二人の海賊の生き様、登場するお宝が(実質的に)本当にワンピースという思い切った設定など、見所の多い良作でした。

ただ、上で挙げたような点と、メインキャラクターのように宣伝されていたルッチがまさかのチョイ役だったのがちょっと気になりました。

次作は四皇が出てきてくれたら嬉しいです。

 

評価:☆☆☆☆(5点満点)

 

ドラゴンボール ブロリー』についてはこちら↓

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