アイアンマンから紐解くMCU【トニー・スターク考察】①
マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)とは、マーベル・スタジオ製作の映画が共有する一つの世界です。
アメリカン・コミックスは、出版社が同じであればほとんどの作品の世界が繋がっているということは有名ですが、それを映画でもやってしまおうというのがこの一大企画です。
今回は、これまでのMCUの流れを斜めの角度からおさらいし、その構造を読み解いていこうと思います。
※この記事は2017年1月5日に旧ブログに投稿したエントリーの(分割)再掲です。
未見の方のための超簡単基礎知識
©Avengers:Age of Ultron/Marvel Studios
アイアンマン/トニー・スターク
天才発明家・エンジニア。
大企業「スターク・インダストリーズ」のCEOだったが、ある事件をきっかけに軍需産業から撤退し、自らが開発したパワードスーツを着込んで悪と戦うようになった。
ハルク/ブルース・バナー
天才科学者。
実験の失敗により、ストレスを受けると別人格の怪物に変身するようになった。
ブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ
KGBのレッドルームで鍛えられた凄腕のスパイ。
その後は国際機関「シールド」に務める。
ソー/ソー・オーディンソン
異次元(外宇宙)に存在する「アスガルド」の王子。
北欧神話で神として描かれた雷神トール本人。
ホークアイ/クリント・バートン
ロマノフと同じくシールドに務めるエージェント。
弓矢をはじめとした射撃・投擲の天才で、狙った的は絶対に外さない世界一の狙撃手。
元来の高潔な心と、実験により得た身体能力によって、第二次世界大戦の英雄となった伝説の男。
世界を守るためにその身を犠牲にし、氷漬けとなっていたが、若い姿のまま現代に蘇った。
上記のメンバーが結集した、世界を守るヒーローチーム。
ロキ/ロキ・ラウフェイソン
ソーの義兄弟。
ソーにコンプレックスを持ち、アスガルドや地球の「王」になることを目論む。
サノス
ロキにチタウリの軍勢と魔法の杖を貸し与え、地球を狙わせた大ボス。
MCU全体の黒幕。
※以下はある程度個人的な解釈であることをご留意ください。/p>
不安症のヒーロー
「光あれ」とかけているのかどうかはわかりませんが、MCUで最初に登場したヒーローは、胸に光を宿したアイアンマン/トニー・スタークです。
MCUという群像劇における最大の主役は今のところアイアンマンであり、これまでの大きな流れは基本的に彼が中心となっています。
なので、彼を知り、彼の目線で追うことによって、MCUを一つの線で結ぶことができます。
彼がデビューした『アイアンマン』は、底抜けに明るい作風の映画で、同年に公開された『ダークナイト』と好対照をなしていました。
しかし、そのような「結果」はアイアンマンの一つの側面にすぎません。
テロ問題や死の商人などのえげつないモチーフに触れるアイアンマンは、表面的な作風とは裏腹に、かなりシリアスなテーマを背負ったヒーローでもあります。
巨大企業スターク・インダストリーズのCEOであったトニーは、自身の開発した兵器がテロリストに利用されている現状を知り、軍需産業からの撤退を決意します。
その後、彼は画期的な動力源・アーク・リアクターと、自分と信頼できる者だけが扱えるパワードスーツを開発し、自らそれを着込んで戦うことで、世界平和に貢献しようとします。
この変化は一見クリーンな発想の転換のように思えますが、軍備によって問題を解決しようとしているという点は変わっておらず、根本的な危険性は残されたままともいえます。
もちろんそれ自体はある程度しかたがないことなのですが、トニーの場合、彼自身の性質が掛け合わさることで、軍備の規模とそこに付随する危険性はどんどん大きくなっていきます。
リアリストでありフューチャリストであるトニーは、具体的な「不安」を行動原理とするタイプの人間で、不安に対して確実な対策を用意しなければ気が済まない性格です。
よって、世界の混沌が増していくにつれて、パワードスーツの数と搭載されるテクノロジー、何よりそれを用いるシステムが強化されることとなり、危険性もそれに比例して増していくのです。
この「呪い」は『アイアンマン3』で一度解けており、「(過剰な武装が無くても)私はアイアンマンだ」という答えに辿り着くことで、彼の不安と軍拡の物語は一度完結しています。
©Iron Man 3/Marvel Studios
しかし、時を前後して動きだしたさらに大きな物語にトニーの物語はすでに巻き込まれており、そのことがイレギュラーな流れをもたらします。
ソーの物語です。
ソーの登場は、宇宙文明の存在を示す決定的な大事件であり、彼の引っさげたきた「世界」にはロキが、チタウリが、そしてサノスが隠れています。
『アベンジャーズ』で描かれたチタウリ襲来(=ニューヨーク決戦)において、これらの決定的な不安要素が加わったトニーの呪いは、すでに一度解かれても再発するレベルのものに変容しており、案の定、閉じたはずの幕がこじ開けられる形で、トニーの不安と軍拡の日々は続くこととなります。
続く